新しい接待の形が、静かに広がっている
最近、ある傾向を感じています。
大手企業の社長や役員の方から、自社ビル内のVIPルームでコース料理を提供してほしいというご依頼が増えてきました。金融、建設、さまざまな業界の方がいらっしゃいますが、共通しているのは「自分たちの最高の空間で、最高のもてなしをしたい」という意志です。
レストランを予約するのではなく、自社の一番特別な場所にシェフを招く。この形の接待が、少しずつ増えてきています。
VIPルームという空間が持つ意味
大手企業のVIPルームは、一等地の中でも最も良い場所に設けられています。
そこは、レストランでは決して味わえない極上のロケーションです。その企業が持つ力と美意識が凝縮された空間であり、ゲストをお迎えするために用意された、いわば「もてなしの最高到達点」です。
その場所に、外部からシェフを一人招き入れる。これは、ホストがゲストに対して「あなたのためにここまで準備しました」と伝える、言葉以上のメッセージになります。
ゲストが驚かれる、二つのこと
こうした場で料理をお出しすると、ゲストの方々が驚かれるポイントが二つあります。
一つは、料理そのものです。「このような場所で、これほどのものが出てくるとは思わなかった」と、見た目にも味にも心から驚かれます。レストランではない場所だからこそ、期待を大きく超えたときの感動が深くなります。
もう一つは、ホストへの評価です。「こういうことができる社長は、本当にすごいですね」——ゲストの方がそうおっしゃる場面を、何度も見てきました。料理の質がそのまま、ホストの格として受け取られるのです。
社長が「指名する」ということ
こうしたご依頼の多くは、社長ご自身が私を指名してくださる形で始まります。
コースの内容は、お客様のご予算やご要望に合わせて設計します。お一人あたり25,000円から55,000円程度のコースをお任せいただくことが多く、食材の選定からコースの構成、当日のサービスまで、すべてを私が直接お預かりします。
社長が信頼できる料理人を自ら選び、自社の最高の空間に招く。それ自体が、ゲストに対する最大級の敬意の表現になっています。
レストランとの本質的な違い
レストランでの接待は、優れた選択です。ただし、空間の主権はレストラン側にあります。
一方、自社のVIPルームに料理人を招く場合、空間の主権は完全にホスト側にあります。ゲストの動線、席の配置、会話の距離感、食事のタイミング——すべてをホストがコントロールできる。
私の役割は、その空間の中で最高の料理と最適なサービスを設計し、確実に実行することです。ホストの意図を理解し、ゲストに伝わる形に変換する。料理を通じて、ホストとゲストの関係をより深いものにする。
これは、レストランでは成し得ない形のもてなしです。
この選択が増えている理由
なぜ、この形の接待が増えてきているのか。
それは、企業のトップが「食事の場」を単なる会食ではなく、関係構築の戦略的な手段として捉え始めているからだと感じています。
自社の最高の空間で、信頼できる料理人の料理を、大切なゲストに召し上がっていただく。その体験が、名刺交換や商談では生まれない信頼を築いていく。
私は料理人として、その場に立ち会えることを誇りに思っています。
Hiromi Koshimizu Gastronomie