企業の会食やイベントでは、料理の美味しさだけでなく、限られた時間と条件の中で品質を安定させる力が求められます。

予定通りに進行すること。
料理の温度や提供の流れが崩れないこと。
その場の状況に合わせて、必要な判断ができること。

私がその基礎を強く学んだのは、フランス修行2年目に勤めた、当時ミシュラン一つ星だったレストランでした。

少人数だからこそ、段取りが問われる。

その店の厨房にいたのは、私と、もう一人の若いフランス人スタッフ。
たった2人で、40名ほどのお客様の料理を回す現場でした。

それまで、そこまで少人数の厨房で営業を回した経験はありませんでした。
最初は正直、とまどいもありました。

メインディッシュだけでも7種類、8種類ほどの選択肢があり、それを限られた人数で同時に仕上げていく。

どこまでを事前に準備するのか。
どこからを注文後に仕上げるのか。
どの順番で火を入れ、ソースを合わせ、皿に仕上げるのか。

少人数の現場では、段取りの甘さがそのまま料理の遅れや品質の乱れにつながります。

料理を作る力だけでなく、現場全体を成立させる力が必要でした。

その日の食材から、メニューが生まれる。

オーナーシェフは、本当に何でも自分でやる人でした。

自分で買い物に行き、自分でメニューを考え、営業前には客席を掃除し、テーブルを整える。
営業が終われば、庭の手入れや家族のことまでしている。

今思い返しても、超人的に働く人でした。

その店で特に印象に残っているのが、メニューの変わり方です。

食材を一度買ってきたら、その食材がなくなるまで使う。
そして、なくなればまた新しい食材が入り、すぐにメニューが変わる。

ある日、休み明けの朝に店へ行くと、シェフが買い付けてきたザリガニやウズラが並んでいました。

「これは何に使うのだろう」と思っていたら、営業開始を前にした11時頃、シェフが突然、

「メニューできたからね」

と言いました。

そこには、ウズラの料理も、ザリガニの料理も入っていました。
しかも前菜として、すぐに出す料理です。

仕込みをしながら、食材を処理しながら、そのまま営業へ入っていく。

その日の食材を見て、考え、組み立て、料理として成立させる。
料理人としての判断力を強く求められる現場でした。

作りたての料理には、独特の力がある。

その経験を通じて、ア・ラ・ミニットの料理の美味しさを強く感じました。

良い食材を買い付け、すぐに処理し、すぐに料理にする。
その場で火を入れ、ソースを合わせ、最も良い状態で皿にする。

作り置きでは出せない力があります。

その地域は鳥の産地としても知られており、店にも鳥を使ったスペシャリテがありました。

鳥という食材の可能性。
フォンの取り方。
ソースの考え方。
火入れの精度。

一つひとつが、今の料理の土台になっています。

現場力は、今の仕事の土台になっている。

フランスでの生活に慣れてくると、休みの日には自分でマルシェへ行き、食材を買うようになりました。

卵を1ケース買って、ひたすらオムレツの練習をしたこともあります。
野菜を均一な形に整えるトルネの練習も、何度も繰り返しました。

派手な経験ではありません。

しかし、そうした基礎の積み重ねが、料理人としての体力を作っていきます。

現在、Hiromi Koshimizu Gastronomieで企業の会食やケータリングをお受けする際にも、この経験は大きく生きています。

現場には、必ず制約があります。

会場の設備。
提供時間。
ゲスト数。
進行。
主催者の意図。

その条件の中で、どのように料理を組み立て、どのように流れを設計し、どこで判断するか。

大切なのは、料理を用意することだけではありません。
その場全体が、安心して進むことです。

少人数でも品質を崩さないこと。
限られた条件でも、最適な形に整えること。
予期しない状況でも、冷静に判断すること。

フランス修行2年目の一つ星レストランで学んだ現場力は、今も私の仕事の土台になっています。